キャシャーン 感想

いや、驚いた。あまりの絵の汚さに。音楽のひどさに。編集のズンボロぶりに。ワケの分からないストーリー展開に。役者の大根ぶりに。紀里谷さん、あんたは凄い。
DV撮りによるギラギラした色調ってのもアリだと思うけど、いくら何でもこれはやりすぎだ。全編にわたってエフェクト大暴れで、「人工的」を超越してほとんど冗談みたいな絵柄になっていた。これでもかと言わんばかりにザラザラ・ギスギスした映像は眼に痛く、たまに自然な色に近いシーンになるとホッとするぐらいだ。黒の階調は全部ぶっ潰れていて、黒服の人間が重なると誰が手前にいるのかすら分からない。ちょっとした騙し絵みたいだ。そしてハイライトは概ね発光している。言い回しじゃなくて本当に発光しているから凄い。赤×青のデンジャラスなポケモンビームもやたらと執拗で、とても頭痛が痛みました。何にも演出されてなさそうな場面でも雨が降ったような激しいノイズにまみれているし、一部のアクションシーンに至っては何だかもうよく見えないし、映画館でこんな薄汚い映像の映画を観たのは多分初めてだ。驚いた。この映像で1時間50分はキツい。
「ミュージックビデオあがり」と言うことで疑問視されていた演出手腕については上手いとか下手とか言うより色々と特殊であった。それ以前の問題なんじゃないかと言う気が激しくした。俺はイマジナリーラインとか全く理解してないし別にどうでもいいんだけど、喋ってる人が果たしてどの方向を向いて誰と会話してるのか、あるいは独白してるのか、時間がどのように経過しているのか全く理解できない会話シーンと言うのも新しいと思った。編集は通常見慣れた映画よりも常に2テンポぐらい速く、観てて大変に疲れる。かと言ってスピーディーなわけでもない。単に尻が足りないのである。これは誉め言葉だが、この感性は多分アニメに近い。キメになるシーンがビシッと絵になって取りあえず感極まったふうになれば、他が全部ぶっ壊れてても構わないと言う強烈な割り切りである。実体以上に巨大そうな世界観を投げかけて作品の雰囲気に浸って貰おうと言うスタイルもアニメ的と言えばアニメ的だ。謎の稲妻型構造物。魔法陣フラッシュ。明らかに意味がないけど意味ありげ。監督は多分「新世紀エヴァンゲリオン」みたいなのがやりたかったのだろう。押井っぽいのにも憧れがあったのだろう。分かるぜ、監督。この監督は恐らく映画とかアニメが純粋に大好きなのだと思う。映画は最低だったのに監督自身を攻撃する気にならないのは、俺が勝手にそう思うからだ。「けものがれ」の須永秀明にはありったけの罵詈雑言を浴びせたが、キリヤンはあーゆーのとは違う気がする。根拠は全然ないけど。そんなわけでどうしても評価が甘くなる。
叩く以外の要素がなさそうにも思える「キャシャーン」だが、実は収穫もあった。この映画は実写とアニメの垣根を思いっきり軽々と超えている。その点には素直に感心した。拍手だって送りたいぐらいだ。押井守あたりがおっかなびっくりやってきたことを、紀里谷和明は恐るべき度胸で正面突破してみせた。この無鉄砲さは意外に侮れないのではないかと思う。下手くそだし見づらいし明らかに色々勘違いしてるし「キャシャーン」は今年観た映画の中で最低の一本だけど、樋口真嗣と組むのであれば、次があってもいいんじゃないかと思うのだった。エヴァっぽくならなければ。エディプスコンプレックスなんてガイジンの妄想です。
後半ちょっと好意的な文章になったけど、映画としては心底どうしようもないので、見に行く人はそれなりに覚悟した方がいいと思います。あと麻生久美子が横たわるシーンで一瞬パンツが見えたような気がするのですが、気のせいですか。そうですか。
フォロー気味に追記するけど、伊勢谷君やキャシャーンの姿形は結構普通に格好良かったよ。いかにもアニメヒーローな扮装でも本気で格好良く作ればサマになることを無事に証明してくれたと思う。アニメの手法をそのまま持ってきたアクション演出も、「マトリックス・レボリューションズ」のアホくさいドラゴンボールアクションなんかに比べたら異次元的に斬新だった。薄汚いけど。スパイダーマン」のスリングアクションも漫画的だけど、あれとも根本的に何かが違う。多分日本人にしかできない。洗練させれば世界レベルで自慢できるものになるのではないか。