トロイ 感想

ほのぼの超大作。
誰がどう見ても明白にブラピ主演のスター映画でありながら、お話的には誰が主人公なのか判然とせず、山場もどこだか分からない単なる騒動の顛末記を、ここまで真っ当な娯楽大作に仕立て上げたペーターゼンの豪腕には正直感嘆した。あんたは凄い。普通に面白かった。
物語は最初から最後まで緊迫することなくほのぼのと進行する。が、散漫な印象はないし、意外に退屈もさせない。トロイ戦争の故事自体がどこを切り取ってもほのぼのとしているわけで、作り手はむしろ故事の本質を掴み取ることに成功したのである。人妻さらってきたら戦争になっちゃいました。わーい木馬だーと入城させたら中に兵隊が入ってました。ペーターゼンはこうしたまぬけなお話を、ことさら飾り立てることなくガシガシと映画の形へと結実させていく。登場人物は苦悩しているようでいて大して苦悩していないし、ほとんど何も考えていないように見えて本当に何も考えていないが、こうした何も掘り下げない人物描写は映画全体のテーマと見事に合致し、ある種の力強さをも生み出している。映画の中で何度も言及される千年単位の視点で眺めれば、きっと人間なんて常にその程度の存在だろう。登場人物がまぬけに見えるのも、台詞が陳腐に思えるのも、作り手の正しいアプローチゆえのことであり、だからこそこの映画はまぬけなのに力強い。人間はまぬけで歴史は偉大である。俺は「トロイ」をそんなような映画と受け取った。
役者も適材適所で観ていて違和感がなかった。ブラッド・ピットは溌剌と動き回り、殺陣も決まっていて気持ちが良かった。エリック・バナは凛々しかったし、オーランド・ブルームはヘタレだった。ショーン・ビーンショーン・ビーンだった。この人は間違えて半端なSF映画の主演をやったりしない限りは仕事が切れないだろう。一時期のゲイリー某(二人いる)の立ち位置に近いものがある。「個性的な脇役」は個性的と言いつつ毎回同じことをやるのが成功の秘訣だ。下手に演技力を評価されてSF映画の主演をやったり(某シニーズ)、「個性的」を拡大解釈されていつの間にか単なる変な人の役しか来なくなる(某オールドマン)などの轍を踏まぬよう、頑張って欲しいと思う。誤解されないように明記しておくけど俺はシニーズもオールドマンも勿論ショーン・ビーンも大好きです。
音楽はジェームズ・ホーナー。映画に相応しいアホな劇伴がナイスだった。
2時間43分。結構な長尺であるし、長さを感じさせないタイプの映画でもないが、それなりに弛緩したまま楽しめる小細工なしの娯楽映画。誉めたわりに正直そんなに面白くもないので、デート用には死んでも勧めないけれど、誰も遊んでくれない週末などに一人で観るには丁度いい映画だと思う。筋肉。