マッハ!!!!!!!! 感想

話題の仏罰系ムエタイアクション、マッハ!!!!!!!!」を観てきました。
タイの映画って多分生まれて初めてなので、台詞の呼吸とかがすぐには飲み込めず、全員大根に見えてしまったのは正直申し訳なかったですが、映画としては結構楽しめました。トニー・ジャーは確かに逸材です。
ストーリーはポンコツでした。必要以上に不幸な身の上の人が登場したり、格闘シーン以外で無駄に凄惨に死ぬキャラが出現したり、それらのエピソードがどこにも繋がっていなかったりと娯楽映画の基幹となる部分が完璧にどうかしています。そもそも悪役は仏像ブローカーなんであって、麻薬汚染とか社会情勢とかは(少なくともストーリー上は)全然関係ない気が・・・と言うのは所詮日本人的な発想でしょうか。タイ人にしてみれば、対決すべき悪の輪郭を強調する重要なデティールだったのかも知れません。その辺はお国柄なので分かりません。が、何にせよ色々適当なお話だったことは確かだと思います。<ネタバレ--八百長なのにドーピングする敵--ココマデ>とか、正直全然意味が分かりませんでした。
さてアクションです。一般的に格闘アクションと言えば、「漠然とカンフー」「漠然と空手」「漠然とマーシャルアーツ」など、漠然とした武道を修得した主人公が漠然とした技で敵を薙ぎ倒していくものと相場が決まっており、我々も段々それに飽きつつありますが、「マッハ!!!!!!!!」は圧倒的にムエタイに特化したムエタイの映画なのでエラく新鮮でした。ムエタイと言えばアレでしょ、ワイクー、肘打ち、格闘技通信でも試合結果とかたまに見るし、などと知ったような気でいましたが、実際にそれを使ってアクションされると意外なほど新鮮なものです。カンフー的お約束の圏外にある見慣れない速さの蹴りや見慣れない高さのジャンプはまさに異文化という感じで、目の肥えた格闘映画ファンにも相当な見応えがあると思います。そうした意味でこの映画は、マーク・ダカスコスの「オンリー・ザ・ストロング」*1やスティーブン・セガールの「沈黙シリーズ」「二字熟語なのにローマ字シリーズ」*2の系譜に組み込まれるべき特殊格闘技アクションと位置づけることが出来るでしょう。ムエタイの肘あり膝ありの殺人奥義はセガール神拳に負けないぐらいの強烈なインパクトで、そのあまりの無敵さ、格好良さには自然と血湧き肉躍りました。技を繰り出す際にいちいち技名を口走ってくれたりすると更に血圧が高まったのですが、それは贅沢と言うものかも知れません。見てるだけで本当に凄かったから。
実際トニー・ジャーの身体能力は異常で、特に直線的なキレの良さではブルース、ジャッキー、ジェットなどの神々系アクションスターさえ凌駕している部分があります。技の痛そう度では抜群にナンバーワンで、ムエタイ選手だけは絶対に敵に回すまいと誰もが思うことでしょう。しかもトニーは単なるムエタイ野郎ではなく、棒やトンファーなどの武器も見事に使いこなすのです。身のこなしも体操選手レベルだし、ほんとに次世代を担うアクションスターに成長するかも知れません。
格闘シーン以外にも見所は沢山あって、追いかけっこアクションなどはジャッキー映画を彷彿とさせる面白さでした。ただトニー・ジャーはギャグが出来ないので、併走する肥大化した中村有志*3コメディリリーフとして大奮闘するんですけど、この辺りはちょっと勿体ないって言うか中村有志頑張りすぎの印象でした。中村有志がいるからトニー・ジャーは格闘アクションだけでいいや」と言うのは好手と言えば好手ですが怠慢と言えば思いっ切り怠慢で、もうちょっとコメディ要素をトニー側に振っても良かったような気がするのです。シリアス/コメディの役割をパッキリ割ってしまった結果、後半最大の見せ場であるトゥクトゥクによるカーチェイス中村有志の担当になってしまい、トニーはいまいち活躍出来ませんでした。あれを脇にやらせちゃうってのは、一体どんなもんなのか。かなり危険でおいしいスタントだっただけに、勿体なさもひとしおです。見るからにコメディ演技が不得意そうなトニーですが、「田舎から出てきました」と言う設定を活かしてトボけたシーンを挿入しておくとか、作り手サイドで色々やりようはあったはずなのです。トニーの魅力をいまいち引き出し切れない作り手の不器用さには、正直不満が残りました。
最後に映画のオチについて少し。この手のヴァンダミズムないしダカスコシズム溢れるアクション映画の大半が「妙にムチムチした体型のボスに、難度はEだけど威力的には疑問が残る謎の必殺キックを浴びせて幕」と言う結末を迎えることはファンにとって常識中の常識ですが、「マッハ!!!!!!!!」は仏罰を大フューチャーすることによってこの定石を見事に外しています。とても豪快なオチなので、かなり期待して良いと思います。新機軸です。
アクション映画ファンとしてはスター誕生を目撃するためにも必見の映画でしょうが、ポンコツ度は高いのであんまり期待しない方が良いかも知れません。巷で言われるようなバカ映画の類では決してないですが、一流の娯楽映画と言うわけでも全然ありません。普通に考えれば「スパイダーマン2」を観るのが先でしょうし、やはりジャッキーは偉大なのです。
でもトニー・ジャーも凄いよ。ほとんど怪人だよ。
それと孤児の少女ムエを演じたブマワーリー・ヨートガモンは関羽に似ていた。

*1:カポエラ

*2:セガール神拳

*3:ペットターイ・ウォンカムラオ