金村修「SPIDER'S STRATEGY」(isbn:4309904408)

東京の都市風景を写し取った写真集。2001年刊行。
金村の写真に特徴的なのは、対象と表象の関係のなさを宿命的に抱える「写真」と言う媒体に対する寡黙な「理解」である。正確さを無視してドラマチックな言い方を選択するならば、それを「愛」とか「覚悟」と言うこともできよう。
実際この写真集には、見れば見るほど何も写っていない。写っているのは電柱であり、金網であり、電線の束であり、看板であり、アスファルトであり…たしかに新しい切り口で捉えた「都市のランドスケープ」ではあるのだが、金村の関心はそんなものには向けられていない。ここに収められた写真が示すのは、もはや「都市のランドスケープ」などではない。それは粒子であり、明暗の差異である。
瓦解する意味。止滅される言説。我々はそれを知ることが出来ない。金村が視線を向けるのは、そうして一切を奪いさる写真の攻撃性であり、奪いさられたあとの空隙を網羅すべく我々が放つ何かである。都市を電線が埋め尽くすように。 「SPIDER'S STRATEGY」とは、大した名付けである。
金村は現在、「YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS」と名付けられたシリーズに取り組んでいる。金村の写真を見てきた者なら直感できることだと思うが、このシリーズのタイトルが「YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS」である必要は全くない。分かりやすく言えば、主語が「YOU」であり目的語が「LOVE」である必要はない。我々はそれを知らない。そこに敢えて「YOU」や「LOVE」を当てはめるのは、情緒を必ずしも否定しない金村修の、徹底的な唯物論者としての矜持であり、実践者として突きつける挑発である。