叫(さけび)を見てきた

黒沢清の最新作、「叫」を見に行った。初日なので舞台挨拶つきの上映があり、出来ればその回を見たかったのだが、ネットで調べてみたら前売り券は既に売り切れていた。当日券は立ち見だそうだ。無理だ。と言うわけで、その次の回を見ることにした。
感想であるが、とても良かった。やはり面白かった。キネ旬に載っていたインタビューによると、プロデューサーの一瀬隆重と「怖い映画を作りましょう」と言う話になり、「何が一番怖いか」「幽霊が出てくる『CURE』でしょう」と言うことになり、そうして「叫」は完成したそうである。
黒沢映画に特有なシーンの数々は、今回もしつこくしつこく繰り返される。役所広司はいつものように疲弊し、発作的に暴力を行使し、幻影があり、誰かが飛び降り、誰かが車で移動し、誰かが死に、誰かが姿を消し、誰かが何かを負わされる。若者は世界への反射だけで生きていて理解不能であり、女性は何かに抑圧されている。つまり全くいつもの通りである。しかしいつも通りでも面白いものは面白い。しかもそのいくつかは想像を超える形に変容していて、これがもう本当に頭おかしくて凄かったです。
幽霊も出てくるし確かにホラー映画なんだけど、ショックや嫌悪感によるホラー演出は注意深く避けられていて、そのため俺のような小心者でも充分に怖がることが出来た。恐怖には必ず予兆があり、不穏さが伴うのである。そしてそれはやはり怖いのである。惹起される感情は、肉体や精神への危害と言うよりも、日常生活の中に塵のように降り積もる何かであったり、ふと思い出される正体不明の何かなのである。それは奇妙で、美しい。
同行した黒沢清ファンは、ミステリ仕立てと言えばミステリ仕立てだし、珍しくサプライズもあるので、これは(興行的に)行けるはずだ、と言っていた。それは流石にファンの贔屓目だと思うが(同行した普通の人の感想は、「少しトンデモ気味ではないか」と言うようなものだった)、俺も皆さんにおすすめしたいと思う。間違えて見に行ってもらいたい。そして変な映画だったね、と語り合ってもらいたい。