ゾディアックを見てきた

見てきた。1968年〜70年代の米カルフォルニアで起こった「ゾディアック」事件を追いかけた人々の、情熱と挫折を描く。監督は事件当時に近所で小学生をやっていたデヴィッド・フィンチャー。主演はジェイク・ギレンホール。奥さん役にクロエ・セヴィニー。すっごい死んだ目のカップルですね。
いわゆる連続殺人鬼ものではない。スリラー的な要素もあるにはあるが、スリラー映画と言うわけでもない。かと言ってオリバー・ストーンの映画のように、何かを告発しようと躍起になっているタイプの映画でもない。当時、時代はこのようであり、人々はこのようであり、ゾディアック事件に関わってしまった人々はこのような人生を送りました、と言う、ゾディアック部の面々およびアメリカの回顧録、と言った風情の映画である。
かつてのフィンチャーっぽいギスギスした刺激は完全に鳴りをひそめ、演出は万事において落ち着き払っている。そうした演出のもと、恐らくは相当な力業でもって再現されたであろう当時の風景や、スター不在の配役が見事に機能し、全編に真実らしさが色濃い。事件についての情報は、極めて執拗な再取材と再検証に基づいたものだそうで、映画を作るにあたって明らかになった事実のいくつかは実際に警察に提出されたりもしたそうだ。そんなわけで尚のこと全編に真実らしさが色濃い。それでいてオリバー・ストーンみたく「敵将討ち取ったりー!」な映画にしなかったのはやっぱり偉いと思う。監督の興味は誰かの勝利宣言ではなく、関わった人間が全員(事件の風化を免れなかったゾディアック自身も含めて)敗北している点にあるのだろう。1962年生まれで西海岸出身のフィンチャーを監督に選んだのは、プロデューサーのジェイムズ・バンダービルトとブラッドリー・J・フィッシャーと言う人だそうだけど、何とも素晴らしい人選だったのではないか。もしかしたら「また『セブン』みたいなのやってくれや」みたいなアホな理由だったのかも知れないけれど。
酔っぱらった状態でレイトショーに出かけたので正直途中寝たのだが(駄目じゃん)、なかなかの力作であると思いました。ただしよく眠れます。
それと映像が素晴らしかった。この映画が全編HD撮影であることは雑誌とかで読んで事前に知っていたんだけど、見たところ、どこからどう見てもフィルム撮りのようにしか見えなかった。自分は「フィルムには魔法があるんだぜ〜」とか言いたいタイプの人間であるが、もはや何言ってんの、と自分で自分を突っ込まざるを得ない状況になってきた。
最後にパンフレットを読んで知ったことには、この映画には実際のゾディアック事件の被害者(ゾディアックに撃たれたけど生き延びた人)が刑事役でカメオ出演しているそうです。