シービスケット 感想

見てきた。近頃珍しいゆったりしたテンポの映画だったけど、役者が良かったのでむしろそれが活きた。面白かったです。
主演のトビー・マグワイア以外誰が出るのか全く気にせず臨んだので、ジェフ・ブリッジス(俺が一番好きな俳優だ)やウィリアム・H・メイシーが出現する度にいちいち驚き、心が躍った。前情報を全く入れないのも映画を楽しむ一つの手ですね。一番良かったのはクリス・クーパー。この人がいなかったらとんだノンビリ映画になっていたかもしれない。あと主人公のライバル、ウルフ(アイスマン)役の人。目が印象的な役者さんだった・・・と思ったら、この人って役者じゃないんだって!本職は本物のジョッキーだってよ。しかも殿堂入りするぐらいの凄いジョッキーなんだってよ。ううむ、何だそれは。演技の上手さ下手さを全く感じさせない、とても自然で巧い役者さんであった。
この映画、本国ではチャレンジ精神とそれを信じる寛容さ、勇気・・・みたいなクラシカルなアメリカン魂とか、そうした要素をアメリカ史に織り交ぜて上手いこと伝え切ったって点が受けて高く評価されたんだと思う。が、個人的にどういうわけかそうした要素が全くツボに入って来なかったので、単なるスポ根ものとして観ることを余儀なくされた。これは単に俺の資質の問題で、映画が失敗していると言うわけでは全くないよ。
単なるスポーツムービーとして眺めた「シービスケット」はどうか。若干カタルシス不足であった。「どん底→再起→勝利」を繰り返すのはスポーツムービーの定石であり、最も確実にカタルシスを作りあげる方法であるが、それを踏襲しつつも「シービスケット」には何かが足りなかった。何が足りなかったのかと考えてみたら、確かに主人公達は一度(とか何度も)どん底に落ちてそこから這い上がって来るのだが、アメリカ史の古き良きオブラートに包まれつつどん底に落ちているので、何となくどん底感が甘いのだ。そうなると当然、困難克服の描写にもアナクロな力強さはない。スポ根ものが常備する、リベンジが成就した時の血液が逆流するような興奮を期待していると、ちょっと肩すかしを食うであろう。この映画の眼目はそういう所にはないと言うことである。「シービスケット」は困難を打破する話と言うより、あるべき姿に「気づく」ための物語だからだ。そこまで言ってなおスポ根ものとして見続けた俺は相当脳みそが不自由ですね。それでもなお懲りずにスポーツムービーとしての感想を続けると、レースのシーンの演出にはケレン味がどうしても足りなかった。動物の擬人化という安直な手を避けたかったんだと思うが、シービスケットライバルの馬と目を合わせるシーンはもっと露骨に分かりやすく撮るべきだったと思う。サム・ライミが監督だったら逆ズームを使って執拗に演出したであろうシーンだ。ピンクの象だ!そこらがちょっと残念だった。
とか色々ケチ臭いことを書いたが、それは俺がケチなのであって普通に観れば良い映画であることは間違いない。俺って競馬とか嫌いで嫌いで仕方ないんだけど、「シービスケット」の映像を見たら競馬場って実は凄く楽しい場所なんじゃないかと思想を転向しそうになった程だ。それにさっき「レースの演出にケレンが足りない」とか偉そうに書いたけど、気にくわなかったのは目を合わせるシーンの見せ方だけであり、他の所は大迫力であったことは忘れずに書いておかねばならない。速えよ、馬。しかも優雅で力強い。俺も飼いたい。そんなわけで十二分に楽しみました。基本的に爆発とかカーチェイスとか、何かしらアクションで人が死にかかってる映画が好きな人なので(ばかということですね)、これは凄い!大傑作だ!とは別に思わなかったけども、2時間20分の使い道としてはお薦め出来ると思います。今回はレイトショーで上手いこと空いてて、真ん中あたりに座ったのに自分の前には誰もいなかったのも素晴らしかった。映画の内容も含めて、スクリーンの幸せを満喫したです。
あと最後になるけど、映画の冒頭、UIP、SPYGLASS、UNIVERSAL、DREAMWORKS、BENA VISTAのロゴが次々に出てきて面白かった。順番忘れたけど確かこれで合ってると思う。何か豪華な感じがして無意味な喜びを感じた。真相は豪華というよりは単にリスクを分散しているだけなのだろうが、一本の映画で色々見られるのはやはり楽しい。パラマウントの山をライオンが走り回るようなオープニングロゴもいつか見られるだろうか。見たくないけど。俺はDREAMWORKSのやつが一番好きです。俺も雲に座って釣り糸たらしたい。素敵だ。