ヴィレッジ(DVD)を見た

今更観た。
巷で言われているように設定を聞いた瞬間にオチまで想像がつく映画であり、実際そのようなオチに至るので、普通に考えれば面白くなる要素が最初から排除されている駄目なミステリー、と言うことになる。はずなのだが、この映画の監督はM・ナイト・シャマランなのだった。今回も、押してくると覚悟していたツボとは全然関係ない秘孔を気づかぬうちに突いてくる。
面白いかどうかは別として、手並みとしては全く見事であり、やっぱりこれは「ある意味面白い」と評価してしまっても差し支えないのではないかと俺は思うのだった。多くの人にとって「枯渇した一発屋」と目されている可能性の高いシャマランではあるが、個人的にはとても好きな監督で、デビュー以来の全ての作品が及第点以上、と言うか、正直に言うとかなり面白いと思っている。「アンブレイカブル」は電撃的な面白さだった。「サイン」も大好きである。
シャマランの才能は、映画と言うフォーマットに対する卓越した客観性にある。テーマに対する視点が客観的な作家は掃いて捨てるほどいるが、映画そのものに客観的な作家はあんまりいない。すなわち、観客は映画を作り物として眺め、観客ならではの客観性でそれを解釈するわけだが、シャマランは作り手でありながらそれを利用するのである。
たとえば我々は、映画が現実の完璧な再現にはなり得ないことを最初から知っている。映画的なデフォルメ、ディテールの省略、ジャンルの常識、設定の不備、ミス、そう言った諸々の縛りや不完全さ(=現実に照らし合わせて言えば「不自然さ」と言える)を、「映画だから」と言う理由で無視する技術を身につけてしまっている。シャマランが突くのはそこだ。
要するに一種のメタトリックであり、特に斬新と言うわけではないにせよ、映像の世界ではギャグ以外の用途で使う人があんまりいなかった手法である。「斬新ではない」とか断っておきながらやっぱり結局誉めてしまうが、一回ぐらいなら上手くいくかも知れない、しかしこれを毎回、しかもメジャーでこなすのは大変ですよ。作品ごとに微細に手口を変え、自分の手癖にまでネタを仕込み、毎度小さな驚きを与えてくれる。素晴らしいじゃないですか!ちなみに今回は、デビュー以来ずーっとやってる「色彩による感情表現」「危険色として赤を用いる」と言う手法そのものにネタを仕込んでいた。今後は「執拗にシンメトリーを保とうとする構図」「本人登場場面」に何かを仕込む可能性が考えられるので、ファンの方は充分に注意されたい。
最後になるが、シャマラン君は確かにボンボン育ちかも知れないが、何を撮っても結局「自分が何者か分かんなくて苦悩し、難関があり、最終的に克服するけど結局何となく悲しい」と言う映画になってしまうなど、デビュー四作目にして既にカルマ的な何か、恐らくは「作家性」みたいな何か、勝手に想像するにボンボンとは言えインド系移住者であった彼がその人生において獲得した何か、みたいなものが、そこはかとなく感じられるような気がして、その点も俺が彼を好ましく思う理由のひとつなのだった。いくら「シックス・センス」で驚かされたからと言って、いつまでもドンデン大将よばわりするのはどうであろうかと思う。
あまり良い評判を聞かない映画だが、言われてるほど酷い作品ではない。個人的には格調のある良い映画だと思う。とは言え小品は小品だと思うので、乗せられてレンタルしてみたけどつまんなかったぞ!とか怒らないでね。