ブックカバーを買った

いわゆる文房具の売り場を練り歩いていた。
新年度も遠くないと言うことで、システム手帳などの品揃えが普段以上の素敵な充実ぶりを見せていた。そうした一般的な暦とは何の関係もなく、ただひたすらに人生を摩耗させている無職の俺も、何となく心を躍らせた。
皮革製のシステム手帳には何とも言えない好ましさがある。ちょっと偉そうでいけすかない反面、意味もなく予定をビッシリ書き込んでみたり、付箋で処理した方が余程効果を上げそうなto doリストの作成&デストロイに血道をあげてみたり、「これこそ最も確実なバックアップだよ!」などと言い張って携帯の電話帳に登録済みの情報をチマチマとメモってみたり、自己目的化するに値する諸々の楽しみが充分に予期されるからであろう。性差で何かが変わるとはあまり思わないが、基本的に男性はこういう無駄さが好きである。
とは言え無職の俺には書き込むことが何もありませんので、取りあえず売り場に置いてあった手帳の表面を触りまくることで観念した。革製品は素敵だ。革靴は嫌いだが、財布とかカメラとかの表面はやっぱり革が良いと思うのだ。手元で扱う物体は、触ってて心地よいのが何よりだと思う。
革製のマウスとかは最近結構見かけるけれど、iPodとかTVのリモコンの表面もいっそ革にしてみたら、きっと売れるんじゃないかと思う。電化製品を皮革で覆うのは、そもそも放熱の問題で無理があるのだが、やったらやったで絶対に素晴らしいはずだ。テレビなんてギターアンプみたくなって絶対に素敵であろう。
そんなことを考えながら売り場を巡っていると、革製のブックカバーが売ってるコーナーに到達した。欲しいけど全く用のないシステム手帳を散々見せつけられ、もはや頭に来ていたこともあり、また実際に前から欲しいなと思っていたこともあり、よし買う、今日は絶対にブックカバーを買って帰るぞと物凄い早さで決心してしまった。
色々売っている。
ギターはフェンダー、カメラはニコン的な無批判なブランド志向の持ち主なので、出来れば評判の良い物を買いたいと思ったのだが、革製品のメーカーなんて全然分からない。かろうじてレッドムーンあたりは知っているが、奴等は基本的に財布である。ブックカバーは作っていない。そんなわけで久々にブランドを無視して感性だけで買い物をすることを余儀なくされたのだった。それはそれで楽しい。
まずは見た目である。シボなどは特に必要ない。また手持ちの文庫本を当ててテストした結果、暗い色の方が文字が読みやすいことに気づいた。外装の色なんて読んでる間は内側の枠の部分にしか関係しないのだが、それでも結構違うのだった。白いと眩しく感じて、あんまり落ち着かない。使うほどに飴色になっていく、ナチュラルな風合いのものに憧れがあっただけに、それが除外されるのはちょっと辛かったが、ブラウン〜黒に加工されたものに絞り込むことにした。ここまでで1/5ぐらいに絞られた。
次に手触りである。文庫本を入れるので、硬質な革だとページをめくりにくいような気がした。迷わず最もヘニョヘニョなものを選択した。最終的に選んだのは、C-COMPANYと言う会社の「アクマゾ」と言う製品であった。

これの黒に決めた。非常にヘニョヘニョな革で、触っていて非常に気持ちが良い。薄い文庫本のカバーに使ってみたが、めくりやすいし、滑らない。かなり機能的である。しおり紐はちょっと使いにくかったが、元々使わない人なので気にしない。色が地味で面白味に欠ける部分はあるが、そこは自分にとっての機能性を優先した結果である。仕方ない。
家に帰ってからネットで色々調べてみると、もっと高級で良さげな物もいくつか見つかった。しかしこればっかりは触って試さないことには分からないし、これ以上のお金も出す気がしない。そしてこのへニョヘニョさには文句がない。今日は良い買い物をしたと思う。
何の根拠もなく猛烈な読書家になれそうな気がしている。新書サイズのも欲しいなあ。