こないだ買ったCD 平沢進「白虎野」

現実をドライブするための幻想ナビ。
驚異の声帯制御とシンフォニック電子POPの達人が、
あなたを時空の迷路に突き落とす。

エスニック、擬洋風、無国籍、民話的、超時代的な平沢スタイルは、キッチュを超えてほとんどビザールの域に達しつつある。たとえばM6「CODE-COSTARICA」などは、明白に「LOTUS」系統の楽曲を母体として作られているが、その変態のしかたがちょっと常識を超えている。このタガのハズれ方は平沢進にとってすら新展開かも知ない。全く好意的な意味で、平沢的マニエリスムの頂点をなすアルバムだと思う。
SF的な言語感覚も健在で、操る言葉のイメージ喚起力には比類がない。「白虎野(びゃっこや)」なんて言う単語を思い浮かべたことのある人間が、これまでに何人いるだろう。歌詞は初めて耳にするような美しい暗喩で敷き詰められ、基本的に意味不明だが、来なかった未来や調和への憧憬、非調和への揶揄などの意図が通底していることは何となく読み取れる。
平沢にとって先のイラク戦争は本当に不快だったようで、以来そのことは楽曲にも色濃く反映されている。とは言え平沢ほど浮世離れしたキャラクターもおらず、それだけに問題提起の方法も現実へのコミットの仕方も、当然のごとく非常に浮世離れしていて、それ故いつも独特の、ある種優雅な訴求力を湛えている。チャリティー屋を批判する気は全くないが、平沢のこうした態度はもっと見習われてよい。
従来からの平沢ファン以外には正直薦めにくいが、(平沢的な文脈での)クオリティはとても高い。歌詞カードの写真が変なのも相変わらずです。