サイン

お腹が空いたのでローソンに買い出しに出かけたところ、お握りが売っていなかった。売り切れだ。パンもない。店員の姿も見えない。何も売っていないコンビニとは一体何なのか。一方で、店の一角を占める成人誌コーナーには、人々のニッチな需要を満たすべく、見たことも聞いたこともないエロ本が各種取り揃えられており、「人妻なんとか」やら何やらと、実に様々な様相を見せているのだった。で、その中に「コシアンなんとか」と言うのがあり、何なんだそれは、と思って近づいてみると、何とそれは、あろうことか、表紙に写っている人物の頭でロゴが見えなくなっているだけで、本当の雑誌名は「ロシアンなんとか」なのだった。どちらにしろ何のつもりなのか全然分からない。すごい。
店内には誰も聴いていないローソンチャンネルが空しく響き渡っていた。ニュースの類を垂れ流し中で、話題はいじめ問題についての何かのようだった。「市の教育委員会は、子供たちの自殺のサインを見逃さないよう、どうのこうの」だそうで、そこで俺の脳裏に浮かんだのは勿論野球だった。自殺のサインを見逃さなかったピッチャーがマウンドで突然死したら、向こう30年ぐらいは歴史に残るビッグゲームになるに違いない。ピッチャーは口の中に隠した青酸カリを噛んだのだ。そんな恐いサインは見逃すべきだろう。
そう言えばM・ナイト・シャマランの映画に「サイン」と言うのがあった。あれは俺は大好きなのだが、あれもサスペンスと見せかけて実は野球映画だったので、きっとサインと言う単語はどんな局面においても野球用語なのだろう。「サイン下さい!」とせがまれてブロックサインを送る有名人や、それに応じて突然ヘッドスライディングを敢行するファンなどが現れたら、この世はさぞかし野球一色だろうなあ。