ミストを見てきた

見てきた。フランク・ダラボンの最新作で、今回はダラボンが製作・監督・脚本の三役を兼ねている。スティーブン・キングの原作は未読。実際に見たのは約一週間前の6月10日で、じくじくと色々考えているうちに一週間たってしまった。
映画の全体は、「盲いた状態とはどのような状態を指すのか」と言うことについての悪辣な考察で、概ねにおいて酷く趣味が悪い。ハリウッドメジャーでこうした重厚なB級ホラー映画が撮られること自体は喜ばしいことだと思うが、喜ばしいのと好きか嫌いかは全く別の問題で、個人的な好みから言えば最低であった。B級ホラーが嫌いなので(怖いから)、これはもう仕方がない。以下、ネタバレします。あらすじは省略します。
憲兵のサム・ウィトワーが明らかにした突拍子もない事実が確かだとすると、要するにまあ、繋がってしまった異次元と言うのは、マーシャ・ゲイ・ハーディング的ルールが適用された異次元だったようで、それについてダラボンは明らかに意図的である。盲いていたのは主人公たちであり、盲目的なカルトおばさんにしか見えなかったマーシャ・ゲイこそが偶然にも真実を言い当てていたのである。ひでえなあ、と思うのは、これが決して寓話として機能しないよう、執拗に映画がコントロールされている点である。すなわち、マーシャ・ゲイは盲目的なカルトおばさんに見えるだけでなく、実際にこの上なく盲目的なカルトおばさんであり、さらに矮小なエゴと悪意に基づいて他罰的な妄言を吐いているだけの最低な人なので、言ってることが偶々真実だったところで、それは単なる嫌な話である。ドラマと言うよりは単純な叙述であり、しかも悪意がある。これを面白いと思えるかどうかがが本作の評価の分かれ目ではないか。「単なる嫌な話の叙述」と言うと、グリーングラスの「ユナイテッド93」あたりが該当しそうだが、受ける印象は全く違う。多分、作り手の側にあったのが悪意ではなかったからだろう。どっちが良いと言う話ではないが、どっちが好きかと言われれば、後者である。
また、子供が死ぬ。しかもただ死ぬだけでなく、寝ていたところをわざわざ起こされて殺されるという悪辣さである。「マジェスティック」で「甘い」だの「ご都合主義」だのと散々ぶっ叩かれた反動だろうか、あまりにも下品なので見ていてイライラした。失敗した者の姿を最後まで描くと言う意味では一応筋の通ったアンチ・ハリウッド映画であり、それもある種の誠実さと言えるかも知れないが、どこか得意気で第三者的なものが滲んでおり、たとえばデ・パルマのようなしょうもない怨念がない。こう言う映画があってもいいとは思う。が、俺は許さない。
数少ない見所は、ブラッカイマー映画の落雷オープニングロゴを模したとしか思えない異様で美しい導入部、時おり挿入される無意味なスラップスティック(バラバラ死体の一部が引っ張られてくるに決まっているのに、わざわざロープをたぐりよせて一同絶叫/灯油に浸したモップに点火しようとしたら、滑って転んで灯油を床にぶちまけて当事者が激しく燃えさかる/ハレルヤ!ハレルヤ!など)、道を横切る巨大クリーチャーの神々しさ、エンドロール、役者の演技、など。それらがなかったら途中で帰っていた。
しかし嫌な映画だった。色々書いたけど、単刀直入に言えば、怖いんだよ!ばか!