サマーウォーズを見てきた

見てきた。無職なので、平日昼間の割引のある時間帯に見に行った。平日昼間にもかかわらずなかなかの大盛況で、上映10分前には席が完売してしまった。映画は面白かった。以下、あらすじと共にネタバレします。

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仮想現実的なインターフェイスを持つネットワークサービス「OZ」というものがあり、これに危機的に依存している社会があった。ある時、「OZ」が不具合を起こすので、社会的インフラにも不調が生じ、世界は危機的な状況に突入してしまう。しかし、数学オリンピックの日本代表級の能力を持つ主人公や、世界的に知られる伝説のゲーマーや、大物政治家にも影響力を持つ国家的黒幕や、自衛隊の装備を自由に動かせる特殊な部署に所属する自衛隊員や、世界的ネットワークサービスであるところの「OZ」をどうこうできる実力があって米軍に雇われたりしている天才的技術者などが、たまたま同じ一家にいて、偶然にも当事者的な立場にあって、各自が適材適所に頑張るので、やがて問題は解決する。
「普通の人が危機を克服することでヒーローになっていく」物語ではなく、「天才やヒーローが的確に動いたので危機が回避される」という物語である。黒澤明の「用心棒」など、最初から強い人が活躍する物語は痛快だが、細田監督は「サマーウォーズ」をそのようには作っていない。危機に直面した主人公たちは、まるで普通の人のように振る舞い、普通の人のようにあたふたする。
由緒ある旧家に、天才や特殊な立場にある人々が、異様な密度でひしめいている。世界は彼らを中心に展開する。ストーリーに呼応しながらテレビの中で力投を続ける親戚の子も、考えてみれば甲子園出場を完投勝利で決めるピッチャーなわけで、この一族の優秀さは不気味なほどである。「OZ」の中では何でもできる。現実の世界でも、実はほとんど全能である。こうして映画に通底するオタク的な全能感は、オタク的な謙遜と爽やかな絵柄によって巧妙に隠蔽され、よほど性格が悪くない限り目につかない。「時をかける少女」でも感じたことだが、細田監督の本領は、恐らくそのようなところにあるだろう。オタクが見たくないものは見せない。見たいものだけ見せる。それなのに見た目はとても爽やかで、健全にさえ見える。かなり怖いタイプの才能だと思うのだが、どうでしょう。
「家族」や「コミュニケーション」といったキーワードがこれ見よがしに飛び交う一方で、たとえば花沢健吾の「ルサンチマン」のような示唆や切実さはない。アニメーションとしての、人間の動作に対する観察力にも、かなりの疑問を覚える。また、オタクである自分が思うので恐らく本当のことだと思うが、オタクを甘やかすような欺瞞が全体に満ちている。それでも何だか魅力的に見えるのは、やはり一種の、評価すべき才能なのかも知れない。
後半、植田正治の写真へのオマージュと思しきショットがあった。長くゆっくりとしたパンで、人物はシルエットになって止まったまま流れていき、背景には雲が湧き出ている。あれはとても美しかった。それと神木隆之介は、声優としても素晴らしい才能を見せていた。演出家の腕も勿論あると思うが、耳ざわりのよい、かすかに破裂するような声の持ち主で、アニメ的な嫌らしさがないのにとても聴き取りやすい。天は何物も与えることがあるのだなあ。
最後に、悪口まみれの感想になってしまった気がするが、決して駄目な映画と思っているわけではなく、また悪口を言ったつもりも特になく、ある種のオタクの警戒心を最大化する傾向のある映画と理解していただきたい。サマーウォーズ、この夏のお勧めです。